PlaneWave L-500導入 - 計画から設置・調整まで -

はじめに

前回はリモート観測所を建設するまでの流れを、これからやってみようかという方向けにざっくりと一通り説明してみました。いかがでしたでしょうか?

観測所の運用も半年ほど経ち、機材も安定してきましたので、あまりほかのブログでは触れられていない情報として、PlaneWave社の赤道儀について取り上げてみたいと思います。
PlaneWave社の赤道儀はまだ国内の利用実績が比較的少なく、特にLシリーズは魅力的なスペックを持ちながら、導入検討した2022年夏の時点では参考になるブログも見当たりませんでした。また、国内正規代理店が見つかりませんでしたので、海外販売店を手がかりに情報収集してきたのは前回の記事の通りです。実際に導入するといろいろ想定内・想定外なことなどありましたので、これから導入を考えている方に参考になるようまとめてみたいと思います。

とある天文月刊誌にてPlaneWave社製品を天文ハウスTOMITA様が正規代理店として取り扱うというアナウンス(広告)がありましたので、この機会に当記事を書いておこうと思い立った次第ですが、機材の性能を客観的に評価できるほどのスキルは残念ながら持ち合わせていませんので、基本的に導入前の注意点や気がついたこと、個人での設置方法などが中心になりますことご了承ください。

PlaneWave赤道儀は重量のある据付タイプの赤道儀です、したがって本来は国内販売店にコンサル・見積もり・設置・保守を依頼するのが安心安全ですが、PlaneWave社のサイトからかなり詳細なインストレーションガイドがダウンロードできますので、ポータブル赤道儀(据付け型ではない、三脚などに乗せられる普通の赤道儀の意味です)を普段使いされている方には、据えつけ方を読んで理解することは難しくはありません。
ですが、一人で抱えられる重量ではありませんので事前に検討・準備しておくことがありますので、それらを自分で解決したいという方には当記事が参考になればいいな思います。

天文ハウスTOMITA様も設置に伴う付帯サービスとセットでの販売をを考えていらっしゃるようですが、自分で設置したい方は製品のみの購入も可能にする方向で検討するとお聞きしています。
そこで自分で設置するにはどんなハードルがあるのかをご理解していただき、これは無理かも? めんどくさ過ぎる、と思われるか、これならやってみよう、と思われるかの判断は人それぞれだと思います。が、いずれにしろ後述のドキュメントを合わせてお読みいただければ設置サービスを利用するかどうかの判断材料になると思います。

 

まず、発注以前に次のことを考えておきます。販売店に相談する場合でも事前に要件を整理しておいた方が良いと思いますし、バランシングなど(PlaneWave赤道儀はバランスが重要です)ご自分で調整するスキルは後々必要になリます。

次の流れで説明していきます。

・観測所内での配置(ドームの場合は問題は少ないです)
・搭載する鏡筒の重量とバランス
赤道儀の脚(ピラーなど)の用意
赤道儀の搬入方法
赤道儀の組み立て方法

資料として、PlaneWave社のサイトにあるインストレーションガイドを読みましょう。
これらの英文PDFファイルはテキスト部分は選択コピーできますのでDeepLなどで翻訳すれば言語の問題はありません。pierが桟橋などと翻訳されてしまいますがわかりますよね(笑)

L-350 Mechanical Installation Guide | PlaneWave Instruments

L-500 & L-600 Mount Mechanical Installation Guide | PlaneWave Instruments

 

ポイントとしては、観測所内にちゃんと収まるのか? 鏡筒を搭載して壁とか隣の望遠鏡に当たらないか? 低空の対象に向けられるか? を確認します。
これは手書きでもいいので図面を引いてシミュレーションするしかありません。

Lシリーズ赤道儀は電源投入のたびにホーミング動作が必要で、その際、『勝手に天の北極方向を向くのでスイングスルーに注意』と以前書いたと思いますが、その際見落としがちなのが鏡筒のバックフォーカスです。つまりカメラまで含めた鏡筒の長さです。

 

鏡筒の長さを確認する

RC鏡筒にフラットナーを使用した場合とレデューサー・フラットナーを使用した場合のリング類の組み合わせ(システムチャート)を図面にしました。補正レンズを使用する場合、メタルバック(補正レンズからカメラセンサーまでの距離)が指定されていますが、フィルターホイールやオフアキを入れても問題ないか確認したかったので、そのついでにカメラを含む鏡筒の長さを算出しました。
ただし、ケーブルコネクタの出っ張りや、赤緯バランスの都合で鏡筒を前後させる必要も出てきますので余裕を持たせた方がいいです。

 

上図のシステムチャートから鏡筒の長さが大体決まりました。
鏡筒のアリガタをスライドすることで赤緯のバランスをとりますので、カメラを取り付けた状態での重心位置を知る必要があります。手元に鏡筒があるならばインストレーションガイドに書いてあるように、アリガタの下に丸棒を直角に置いてシーソーのようにバランスが合うところが重心となります。この重心位置は後でまた使いますのでマーキングしておきます。この鏡筒ではカメラ後端から648mmのあたりになりました。フォーク式はアームが長いと剛性が下がるため、このようなボトムヘビーな鏡筒が向いています。

 

次にスライディングルーフに収まるかどうかの確認です。
西の方向から見た図です。(左が北になります)

北と南の壁には衝突しませんが、ルーフに衝突することがわかります。
天の北極に向けた時にカメラがマウントに衝突することはなさそうです。これを「スイングスルー」と表現しています。
南の低空は、この図には記載していませんがCAD上で計測すると高度21°以下の対象は撮影できないことがわかります。(このスライディグルーフは南側の壁の一部が可倒式になっています)

 

次に北側から南を見てみます。

東西の壁はカマボコ型で固定なのでどうしても死角が多くなります。
隣の赤道儀がドイツ式ですので、子午線を超えているときに(メリディアン化EM-400なので)、左の鏡筒の筒先と右のカウンターウェイト先端が衝突する可能性がありそうですね。

 

上から見た図です。
赤道儀ウェッジとの組み合わせでは南北方向のスペースが余分に必要になります。
つまり経緯台として使用する場合はもっとコンパクトになります。
2.4m X 3.8mのこのスライディングルーフだとL-500+ウェッジはギリギリセーフという感じです。
栃木県でこれですから低緯度の地域ではもっと短い鏡筒でないと壁に当たるかもしれません。今回搭載した鏡筒はGSO社の16インチRCですが、PlaneWave社のCDKシリーズやAG Optical社のiDKシリーズ、UK ORION社のODKシリーズなどは鏡筒が比較的短いのでスペース的にはもっと余裕が出ると思われます。逆に屈折鏡筒のようにトップヘビーなタイプはフォークアームのアウトサイドに搭載することになるでしょう。

赤道儀ウェッジは緯度に合わせていくつかのパターンがありますので設置場所に合わせて選びます。

搭載重量も計算してみましょう。

Lシリーズの最大搭載重量は、
L-350 45kg (自重50kg、スイングスルー22.5インチ)
L-500 91kg (自重100kg、スイングスルー25.62インチ)
L-550      ?       新製品でまだ仕様未開示
  ※ 追記 2023-11-26 
           L-550はL-600のモーターをL-500の筐体に収めたもののようです。
           最大搭載重量はL-600と同じ136kgとなっていました。
           私のようにアウトサイドにも鏡筒を載せる欲張りにはこちらが向いていそうです。
L-600 136kg (自重153kg、スイングスルー35.1インチ)

となっていますが、ドイツ式と異なりカウンターウェイトも含みます。(Lシリーズはバランシングアクセサリーとしてマウントや鏡筒に設置するオプションウェイトが用意されています)

私の場合は、L-500でGSO16AとCCA-250の並列同架を目論んだため以下のようになりました。
GSO16A + カメラ等  36kg
CCA-250 + カメラ等  27kg
FC-76DS  3kg
ワイドサドル(インナーサイドのアリミゾ) 5kgくらい?
Kellerサドル(アウトサイドのアリミゾ) 1kgくらい?
バランシングアクセサリー + 追加ウェイト 19kgくらい?

合計で91kg ピッタリかなー?
当初は追加ウェイト(10kg分)はありませんでしたが、アウトサイドのCCA-250が重過ぎるため追加しないと赤経バランスが取れなかったのです。


純正のバランシングアクセサリーです(2,5,10ポンドのステンレスウェイト付き)

 

シミュレーション結果の検討

このようなシミュレーションをしてみると、全天どこにでも向けられて、他の望遠鏡とも干渉しないというケースはドームくらいではないかと思います。その場合、どの制約が許容できるか/できないかを妥協するしかありません。
例えば、鏡筒のホームポジションを西向き水平にし、不動点をもっと上げることによってもっと南天低空の対象を狙えるようにするとか、逆に不動点を下げて雨滴センサーでルーフ自動閉しても衝突しないようにするとかですね。

この検討結果によって配置と脚(ピラー等)の高さを決定します。
私の場合は、不動点を限界まで低く、限界まで南になるようにして、雨滴センサーによるルーフ自動閉を一旦諦めます。将来的には赤道儀の制御ソフトを外部からコントロールし、ホームポジションに格納してからルーフを自動閉する仕組みを考えたいと思っています。この赤道儀の制御ソフトはPythonスクリプトでコントロールできるそうですが、今のところライブラリ情報など必要な情報が入手できていません。
ホームポジションの位置は自由に設定できますので、ルーフの動きと連動できるようになったらウェッジの下に置くハーフピラーを作るかもしれません。

 

脚(ピラー)の設計

赤道儀ウェッジの底面は以下のように6本のスクリューで床またはピラーの上面に固定する仕様です。単位がインチであることに注意してください。
下図はL-500用ウェッジのピラーインターフェースです。

不動点が低い方がいいとはいうものの、コンクリート床に直に赤道儀を置くことは普通はできません。アンカーネジ穴をコンクリート床に1mmのズレもなく建設業者に設置してもらうのは困難ですし、後付けのアンカー(グリップアンカーとか)をズレなしで設置するのも無理です。1mmでもズレたらダメなのです。またコンクリート床も完全に水平平面ではありません。

一方で、鉄材の加工は公差を非常に小さくすることが可能です。そこで私の場合は厚さ25mmの鉄板(黒皮鋼板)を脚ベースとして鉄工所に依頼しました。


下記の図面は鉄工所に送付した図面ですが、6本のボルト位置をインチからミリに変換しています。厳密には15.75インチは400.05mmですが、そんな公差は保証できないと言われそうなので400mmとしました。0.05mmの誤差なら特に問題ありません。
床面に固定するためのキリ穴はφ40mmもの大穴を10箇所に開けていますが、t10mmの鉄板でφ80mmの特製ワッシャを作ってもらい、アンカーのズレを吸収することとしました。
他に4箇所吊り下げ用のアイボルトを捩じ込むタップ穴を開けてもらってます。M8で注文してしまいましたが、現物を見て小さ過ぎると考え直してM12を自分で開け直しています。t25mmスチールにM12のハンドタップはもう人力の限界です(笑)

PlaneWave赤道儀と鏡筒との接続はアリミゾ・アリガタ(マニュアルにはそれぞれSadle,Dovtailと記載されています)方式ですが、L-500のインナーサイドはPlaneWave独自の大型アリミゾが標準です、発注時にロスマンディタイプを指定することもできるそうです。L-350のインナーサイドはロスマンディタイプです、アウトサイドに別の鏡筒を同架する場合はL-350,L-500ともにロスマンディタイプのアリガタをオプションで取り付け可能です。Keller EZ Sadleというロスマンディアリガタでしたら取り付け穴位置不適合の心配もないのでお勧めします。

右がPlaneWave独自の大型アリガタ、左がロスマンディ規格のKeller EZ Sadleです。
ちなみに左の鏡筒は当初CCA-250でしたが、現在はε-180EDを載せています。

 

PlaneWaveのCDKシリーズ鏡筒であれば、この大型アリガタ仕様ですのでそのまま取り付けられますが、他社の鏡筒ではアリガタを製作する必要があります。
以下の図面を作成してアルミ材で特注しましたが、意外に重くてできれば適度に肉抜き加工をした方が良いと思います。
また鏡筒によっては、このアリガタを鏡筒に取り付けるプレートも別途製作する必要があるかもしれません。私の場合は鏡筒のチューンナップを依頼した田中光化学さんに製作依頼しました。ですので下図のキリ穴やザグリ穴はその特注プレートの仕様にマッチするように設計されています。

 

赤道儀赤道儀ウェッジ、アリガタなどの仕様はPlaneWave社のサイトからダウンロードできますので、それをベースに作図しています。

Drawings and Diagrams | PlaneWave Instruments

 

どうでしょうか?ここまでが事前検討でした。
L-500について書きましたが、L350,L-600も基本的には同様です。

私のL-500赤道儀は2022-08-03に発注し、2022-12-28に納品されました。
半導体不足のため予想より日数がかかりました。時期によっては在庫ありの時もあります。アメリカのOPTとWoodland Hillsに相談し、対応の良いWoodland Hillsに発注しました。(その後OPTは閉店し、Agena Astroへ移管したとのことです)

 

鉄板とアリガタ製作の費用も掲載しますので参考にしてください。材料価格は流動的なので時期によって大きく変わる可能性があります。

 

脚としての鉄板

アルミの大型アリガタ

 

さて、いよいよ納品です。

一度に全部来ても大変なので、赤道儀が来る前に脚(私は鉄板(^_^;)、アリガタ、鏡筒チューンナップを済ませておきました。

人手が確保できるのでしたら問題はありませんが、重量物ですので移動するためには動線の確保とツールがあれば、より安全です。
私の場合は、単管の在庫がたくさんありましたので吊り下げモノレール方式で搬入しています。

 

鉄板の搬入と塗装とか

鉄板は127kgもあります。このような重量物は運送会社の営業所渡しが普通です。
到着予定日に軽トラを借りておき、営業所から連絡が来ますので受け取りに行きます。
営業所では木製パレットに載った状態で到着しており、フォークリフトで荷台に積んでもらえます。

動線としては、駐車場→1.5m上げて敷地内へ→10mほど水平移動→2.5m上げてスライディングルーフ入口へ→2mほど水平移動して設置位置へ

準備さえ怠らなければ一人で十分できます。
手で運ぶとなると大人4人でもキツそうです。

以下の写真でイメージが掴めるかと。
一人だと荷がぶら〜んとなってトラックの荷台や観測所の壁などにぶつけがちですので慎重にやりましょう。
観測所にユニック車が横付けできれば、こんな面倒なことは一切必要ありません。

 

1.5〜3mの上げ下ろしはチェーンブロック

1.5m以下ならレバーホイストが便利

水平移動はパイプトロリー(250kgまでOK)

 

鉄部ラッカースプレーで塗装しました。

 

よく晴れた日に南中時刻を確認して、下げ振りを使って正確な南北線の墨出しをします。

 

グリップアンカーを打ち込みます。
M12用なのでハンマードリルでφ18mm,深さ50mmのアンカー穴を開けて、グリップアンカーを打ち込みます。底に着くと広がって抜けなくなる仕組みですので、やり直しはできません。鉄板のベースにはφ40mmの穴が開いてますので、位置決めしてから穿孔できますし、多少ズレても問題ありません。
(コンクリートの穿孔は骨材という硬い砕石に当たるとズレますので、手作業では誤差1mm以下の精密な穿孔は無理だと思った方がいいです)
コンクリートにφ18mm穿孔は振動ドリルでは力不足でできません、モーターが焼けます。(焼きましたw)

 

 

脚の準備ができたところです。

 

赤道儀の納品

運送会社によって対応が異なるかもしれませんが、最寄りの営業所に着くと着荷の連絡がきます。赤道儀も重量物ですので営業所渡し、または車上渡しになると思います。

ゲート車で行きますか?どうします?と聞かれたのでゲート車をお願いしました。
車上渡しでは受け取り側が事業者の場合、フォークを用意していることが多いため普通のトラックにパレット積みで来ますが、私の場合は地面に降ろしてくれないと受け取れませんのでそれでは困ってしまいます。L-350でも木箱が重いので大人2名でも不可能だと思います。
ゲート車はこのように荷台の後ろにパワーゲートという上下する台がついたトラックです。今回はビシャモン(構内で乗って遊ぶヤツ (๑˃̵ᴗ˂̵)も持ってきてくれたので、駐車場まで入れてもらいました。

 

合板の木箱の中に分厚い鉄板で固定されています。どうりで重いはずですね。
木箱はその場でバラバラに分解しますが、赤道儀は完成形のままではとても重いので、アーム部分とベースモーター部分を分解してから運びます。
ウェッジはもう一つの木箱に入っています。
合計3つの機材パーツになりますが、どれも一人で運べる重さではありません。
L-500なら二人は必要でしょう。
鉄板搬入時のようにツールを駆使すれば一人でもルーフ内に搬入できますが、機材価格が2桁違いますので念のため応援を呼びました(笑)

 

ベースモーター部分、アーム部分、各鏡筒の取り付けを行います。
単管とレバーホイストがあれば一人でも作業できます。
アリガタの重心マーキングとアリミゾの中心を合わせれば赤緯バランスが合うはずです。

 

鏡筒が1本のときはまだ赤経バランスが取れていませんのでこのようになります。
クランプはありませんので勝手にクルクル回ってしまいますので注意しましょう。
(簡易クランプという名のネジとゴムが付いてきますが役に立ちません)

 

アウトサイドにCCA-250を取り付けた状態です。

 

北側に水平に向けても壁にはぶつからないですね。ギリですが。
(GSO16Aが骨っぽいですが主鏡周りのメタルカバーはチューンナップ時に捨てました、シュラウドとプラ段で迷光防止してます)

 

この赤道儀はマニュアルにもあるようにバランスが非常に重要です。
電源オフで赤経赤緯ともフリー状態になってますが、軽く触っただけでクルクル回ります。微妙なバランスを取る必要があるため、バランシングアクセサリーを使用すると調整がとても楽になりますが、狭いスライディングルーフですから振り回す範囲にも限度があります。鏡筒のシミュレーションはしましたがバランシングアクセサリーまでは思いが至らず、写真のように衝突ギリギリです。(わざと限界を狙ったわけではないです)

 

スイングスルーはこの程度の余裕があった方が良さそうな気がします。

 

想定外だったのは、不動点を限界まで低くしたためにバランシングアクセサリーが床に当たってしまう向きができてしまいました。北東低空に向けた時に当たります。
北東は高木で空が遮られていますのでどのみち実害はないのですが、後述するモーター自動調整を走らせたときに当たってしまい中断してしまいます。デフォルト値を変えればモーター自動調整は可能でしたのでこのまま運用することにしました。

なお、この赤道儀はダイレクトドライブのため減速ギアが無く、仮に障害物に当たっても機械的に損傷したりすることはありません。

 

お気づきかもしれませんが、バランシングアクセサリー標準添付のウェイト以外にSkyWatcher EQ6R用のウェイト(5kg)を2個くっつけてます。黒いL字型の部分にはいくつかタップ穴が開いていました(全部インチねじ)ので、専用のステンレスシャフトを製作しました。

赤緯方向のバランス調整は、鏡筒を前後させたり、鏡筒の先端や主鏡セル後部のバックプレートにウェイトを追加することで調整します。
赤経方向のバランス調整は、アームをベースに取り付ける際にオフセットさせることで疎調整し、下の写真のようにアーム下部のキャップスクリューを緩めてから、今レンチが刺さっている部分の六角ヘッドで微調整します。
それらで調整できないケースではバランシングアクセサリーを使用することになるでしょうが、搭載重量を消費します。基本的にアウトサイドに重い鏡筒を同架しなければバランシングアクセサリーは不要です。

 

そんなこんなで組み立てまで一応終わりました。
長いですね、この記事(笑)

 

次は極軸合わせです。

極軸合わせ中の写真を撮るのを失念してました、PlaneWaveのソフトウェアにも支援ツールがあったかと思いますが、一般的なドリフト法で合わせてます。
支援ツールを使った場合はプレートソルブを行なって、例えば方位ボルトを7.7回転回せ、という感じで指示が出るようです。
方位は6本のキャップスクリュー(今3本見えてます)を緩め、壁際にある太いネジに専用のレンチを使用して左右させます。
高度の方ですが、このウェッジの下面にカマボコ型のステンレス棒が付いていてシーソーのような構造になっています。北と南にある金色の大きなナットを専用のレンチを使用して上下動させます。鏡筒が載った状態で行いますから下げるのは簡単ですが上げるのは大変です。マニュアルにも高めにしておいて少しずつ下げながら調整しろと書いてあります。
この方位高度調整ネジ・ナットのヘッドは六角ではなく歯車のような多角形なため、狭いところで細かく回すことができるので、このように壁際ギリギリの配置でも回せるのが優秀です。

極軸合わせのやり方はどの赤道儀でも基本的に同じですので割愛してもいいですよね。

 

ここで、この赤道儀を制御するソフトウェアの説明をしたいと思います。

みなさんが普通に天体撮影に使用しているソフトウェアはなんでしょう?
私はタカハシEM-400を使用する時は、
 Cartes du Ciel (フリーのプラネタリウムソフト)
 PHD2 (フリーのオートガイドソフト)
 All Sky Plate Solver (フリーのプレートソルバー)
 MaxImDL (有料の撮影ソフト)
くらいでしょうか。
いずれもASCOM Temmaドライバーを使用していますので、赤道儀の初期化もASCOM Temmaドライバーがやってくれているはずです。

PlaneWave Lシリーズ赤道儀もPWI4というソフトウェアをインストールするとASCOMドライバーもインストールされますので、上記のようなASCOM対応ソフトが使用できます。ですが、PWI4でしかできない必須操作があります。

 ・モーターチューニング
  この赤道儀に搭載された鏡筒などの機器のペイロード(荷重のことです)測定
  です。鏡筒を載せ替えたりしなければ、設置時の一回で済みます。
  Quick,Normal,Thoroughの3種類ありますが、いろいろな方向を向かせるかどうか
  の違いだけです。ペイロード測定は2Hz〜1250Hzまで刻んでモーターで両軸を
  振動させることで判断しているようです。

 モデリング
  全天の任意の位置を20箇所ほど指定してプレートソルビングを自動で行います。
  マニュアルでは撮影ソフトとしてMaxImDLの画面が載っていますが、他の撮影
  ソフトでできるかは試したことがありません、MaxImDLはトライアル版でも
  使えます。これも設置時の1回だけです。プレートソルブはとても高速です、
  また、撮影とプレートソルブは非同期で進みますので時間はかかりません。

 ホームポジション動作
  原点の検出動作をします、電源を入れるたびに1回実行する必要があります。
  鏡筒が素早く大きく動きますので、近くにいない方がいいです、ボヤッと
  してると殴られます(笑)

※ 追記 2024-01-24 
    ホーミング動作の動画が見れない状態でしたがやっと直しました ゴメンナサイ。

私の場合は、先に記載したようにバランシングアクセサリーが床に衝突するため、北東の一部には向けられませんので、モーターチューニングは[Quick]で、モデリングは北東を避けてポイント指定しました。観測所の立地によっては様々な障害物があって撮影画像を取得できない方向があるのは普通ですから、満遍なくポイントできなくても対象導入精度にはさほど影響はありません。雲が邪魔してプレートソルブに失敗したポイントが出ても中断せず正常にモデリングが完了します。

モーターチューニングやモデリングが正しくできていれば、PHD2もASPSも必要ないのでPWI4のプラネタリウム画面で対象導入して(一発でど真ん中に入ります)MaxImDLやお好きな撮影ソフトで快適に撮影できるでしょう。
ASCOM対応なので自動導入も使い慣れたソフトも使用できるはずです。
オートガイドはしないの?と思われるでしょうが2600mm,180秒程度でしたらちゃんと点像に写ります。PHD2でも良い成績が出せるはずですが。
※ 追記 2023-11-26
   現在はPHD2オフアキガイドで運用しています。
   モデリング(全天一括プレートソルブ)の様子を追加します。対象移動〜撮影〜プレートソルブを
   自動的にループします。StatusがAddedToModelになれば成功です。

 

では電源オンから撮影までの大まかな手順を画面で見てみましょう。

① 電源をオンにし、Connect→Enable RA→Enable DEC→Home mount で
 原点検出動作をします。

 

②対象を星図画面でクリックするか、検索画面を出してカタログ番号で選びます。
 GoToで鏡筒が対象へ向きます。

 

ICやArp天体はローカルカタログにないですが、インターネットにアクセス可能であればOnline Searchできます。

 

GoToしたあとは自動的に追尾が始まります。
Trackingタブを見てみると、モーターの動きとエンコーダーで読み取った値との差がRMSとしてグラフ表示されます。左下グリーンの欄に平均RMSが表示されていますが、0.05秒角〜0.06秒角と良好に動作しています。0.2秒角を超えるようであれば、搭載重量オーバーやバランスが取れていない状態と思われます。
このグラフはPHD2に似てますが、PHD2は実際の星像との差であることが大きく違います。

 

試しに搭載重量オーバーにするとこうなります。触ってみると鏡筒が細かく振動しているのがわかりますし、星像も伸びてしまいます。
この記事の上の方で、GSO16AとCCA-250を載せてカメラがZWO ASIカメラでは良好だったのが、SBIG STL-11000Mに交換しただけで(2kgオーバー?)このようになってしまいました。もちろんバランスは取り直したつもりです。

 

オートガイド(もちろんオフアキシスガイド)が必要かどうかは気流や考え方次第かなと思っています。私は今のところ、撮影結果的に必要ないと判断しました。今日はガイドの調子がどうのという負担から解放されるのはとてもスッキリします。
※ 追記 2023-11-26
   ガイド不要と書いてしまいましたが、一晩中同一対象を取り続けていますと、
   わずかなズレが蓄積されて、撮影開始と終わりで構図が変わってしまいました。
   そのため、現在はPHD2でオフアキガイドしています。

 

この赤道儀の売り文句は、
・ダイレクトドライブでギアがないのでバックラッシュゼロ、
 ピリオディックエラーゼロ、高速駆動、ほぼ無音
・高精度エンコーダーが装備されており対象を一発で真ん中に導入できる
・片持ちフォークのため鏡筒を取っ替え引っ替えできる、アウトサイドにも同架できる
・搭載重量の割に自重が軽くコンパクトである
・ギアのような摩擦がないため摩耗がなく耐久性がある、グリスなどのメンテも不要
といった感じでしょうか。

 

ただし、以下、私見です。
無音、静音というのは異議があります。確かにダイレクトドライブモーターは無音です、が、冷却ファン?の音はかなりうるさく、ルーフを閉めた状態でも外から電源が入っていることがわかるレベルです。深夜の住宅密集地でルーフ開放したら問題になりかねません。モーターチューニング時の音もすごいです。100Hz以上の可聴域の測定では本体や鏡筒が共振して大きな音が出ます。おそらく隣家の部屋の中から聞こえるでしょう。

だからと言って他のメリットをスポイルすることはないと思いますが、どこでも設置できるということにはならないと思われます。
※ 追記 2023-11-26
   冷却ファンはL-500,L-550,L-600に装備されているので、L-350はほぼ無音と思われます。
   冷却ファンを静音タイプに交換すれば改善されると思いますが、メーカー保証は無くなるでしょう。

 

私見ついでですが、このPlaneWave Lシリーズがどのような観測スタイルに向いているか考えてみました。
搭載重量50kgクラスでポピュラーなのはSkyWatcher EQ8Rでしょうか。エンコーダなしなら圧倒的なコストパフォーマンスです。ではそれ以上の搭載重量はどうでしょう。ASA DDM100(100kg),Astro Phygics 1600GTO(100kg),Mathis Instruments MI-750(90kg),Software Bisqueが候補に上がってきます。載せる鏡筒の大きさを考慮するとフォーク式が不動点が低くて有利な気がします。
最近は遠征撮影でも複数の赤道儀を同時運用している方を多く見かけます。理由は撮影機会が限られており、条件のいい時に撮れ高を稼ぎたいという思いがあるでしょうね。露出は正義という言葉もよく聞きますし、総露出時間がS/N比を左右するのは否めません。スライディングルーフの建設が多いのも、複数の赤道儀を同時運用したいという意識の表れかと思います。
そういったニーズから、天井高の低いスライディングルーフで運用しやすく、最もポピュラーな南北2.4mクラスでの複数運用に向いている赤道儀だと感じています。

 

いかがでしたでしょうか?
こんな長い記事をここまでお読みくださってありがとうございます。
国内正規代理店もできましたし、ユーザーが増えて集合知が充実していくのを楽しみにしています。